「全方位外交」の観点から日本の方向性を位置づけ
著者・羽場久美子
岩波ブックレット、定価500円+税
アジアの地域統合と日本の取るべき立場を短時間で包括的に理解するには手ごろな70ページのブックレットである。小冊子ながら、話題のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)でも、日本の方向性として有力な「全方位外交」の視点から明確に位置付けているなど、質は高い。
著者の立場に賛同するにしろ、反対するにしろ、今後、アジアの地域統合と日本の外交の方向性を議論する場合は、本書が議論の「テキスト」となるだろう。
著者はもともと拡大EC(欧州共同体)の専門家だが、最近は地域統合に関する欧州と東アジアの比較研究を行っており、本書もその成果の一つである。
著者は「欧州もアメリカも『成長するアジアを押さえなければ未来はない』と考え、生き残りをかけてアジアに接近しており、その象徴的な試みの一つがTPPである」として、「日米同盟」一辺倒論や「米国か中国か」のような二者択一論でいいのかと問い掛け、「米国も中国も韓国もASEAN(東南アジア諸国連合)も」という「全方位外交」を説く。
著者の主張と提言は第3章の「成長するアジアの地域統合戦略-日本の課題」に包括的に述べられており、この部分だけでも一読に値する。特に、独・仏関係、独・ポーランド関係、バルカンの歴史教科書を例に挙げ、中国などとの「歴史的問題は乗り越えられる」としている部分は興味深い。
ただし、著者の主張に賛同する政治勢力はまだ出てきておらず、「共同のシンクタンクを創設して若者の教育から始めよう」といった主張などは、実現性を考えると道は遠いとの印象は否めない。 (酒)