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2012年3月17日

【この1冊】『ほどほどに豊かな社会』

混とんとした日本社会像への提言

c120317.jpeg著者・橘木俊詔・香山リカ
ナカニシヤ出版、定価1800円+税

 

 バブル崩壊後の経済の長期低迷により、「豊か」だったはずの日本は若者問題、無縁社会、教育格差などの諸問題が噴出していたが、加えて昨年の東日本大震災は日本社会のあり方を根本から見直す必要性を国民に突きつけた、と言ってよい。

 長年にわたって世界第2位の「経済大国」を維持してきたこの国で、生活保護受給者が200万人に達し、先進国の中で高位の「相対的貧困国」になっている事実に首を傾げる人は多い。しかし、大震災では人命が一瞬にして奪われ、経済大国を象徴していた原発の事故によって生活を破壊される人々が大量に生じた。国民的な価値観は大きく揺らいでいる。

 本書は、経済学者の橘木氏と精神科医の香山氏による、この時期にぴったりの対談だ。橘木さんは、経済学者でありながら「格差」「貧困」問題に早くから取り組んできた。香山さんは、患者の診療を通じて「心の病」にひそむ現代的課題を鋭く告発し、効率一辺倒の経済至上主義に警鐘を鳴らしてきた。

 本書でも、「豊かな社会」の中で悩む若者群像、無縁社会の背景、学校教育の問題点、働くことの意味、大震災で表出した日本人像など、興味深いテーマについて自由に意見交換している。

  その結果、これからの日本について、橘木さんは「1~1%程度の低成長でよい」、香山さんは「自己実現のための労働を」と訴え、両者の共通キーワードが「ほどほどに豊かな社会」ということになった。

 論理的には荒っぽい部分もあり、「ほどほど」が良いか悪いかは議論の分かれるところだが、対談の中身はかなり濃い。なにより、2人とも発言がわかりやすい。考えのまとまらない凡人の頭には、うってつけの1冊だ。  (のり)

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