「複合連鎖危機」を分析、提言
編著・竹中平蔵、船橋洋一
東洋経済新報社、定価2300円+税
東日本大震災と福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故から、間もなく1年。この間、復旧・復興への努力と同時に、大規模自然災害に対する準備や原発の存廃をめぐる議論など、官民挙げてさまざまな意見・主張が飛び交ったが、中には冷静さを欠いた感情的な意見も見受けられる。
本書は危機管理の観点から、大震災の教訓を世界に発信することで、日本を援助してくれた国々への恩返しにするという目的を持つ。したがって、日本語と同時に英語、中国語、韓国語でも同時出版した。
本書では今回の震災を単なる自然災害ではなく、原発事故やサプライチェーンの寸断など、日本の企業活動や日常生活にも影響を与えた「複合連鎖危機」と規定。それのもたらした影響について客観的に分析、提言している。
「大災害と国土・都市」「経済をめぐる諸問題」「大災害と政治・社会」の3部構成で、全10章。学者を中心に、それぞれの専門家が詳細な分析を加え、反省点と課題をえぐり出している。テーマも地震・津波への備えから自治体の役割、日本の電力供給体制、政治などのガバナンス危機、災害情報の通信基盤など広範に及ぶ。
被災から1年も経つと、直後のような切迫感は薄れ、世の関心は消費税や年金などに向かい、政界に至っては解散・総選挙に浮足立つ始末。一方、今も津波による大量のがれき処理が残っており、原発周辺の避難民はいつ帰れるかわからない生活に希望を見出せないでいる。
「災害体験を風化させてはならない」と言うは易し。本書にはそんな無言の警告も盛り込まれている。読後に感じるのは、驚くほど多くの問題が未解決のまま、ということだった。 (のり)