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2012年1月 7日

【この1冊】『食糧危機が日本を襲う!』

国家戦略なき日本農業に警鐘

c120107.jpeg著者・柴田 明夫
角川SSC新書、定価820円+税

 

 表題だけ見れば、ガチガチの農業擁護論者による「農業を守れ!」論と思われがちだが、読んでみるとまったく違う。既得権を守るための感情論、自由化論に一切聞く耳持たない“尊農攘夷”論ではない。

 全8章で構成されており、入り口は東日本大震災で明らかになった、日本の食料供給体制の脆弱さ。そこから起こして、世界はこのままだと人口爆発と食糧不足に直面すること、食糧価格は中長期的に上昇すること、中国などの食糧輸入の増大によって国際市場は大きく変化すること。

 これまで世界中から低価格で食糧調達できた日本の立場は確実に悪化すること、それらにもかかわらず政治行政に食糧戦略がなく、このままでは日本の農業は確実に衰退すること――などが明快に語られる。それも、「コメは日本人の心の古里」といった情緒的な訴えではなく、各種統計や国際情勢を集計・分析しながらの予測だから、説得力がある。

 昨年、大きな賛否を巻き起こしたTPP(環太平洋経済連携協定)についても、著者は反対ではなく、日本農業の再生に向けた“ショック療法”として反対していない。TPPに参加しなくても、戦略なき日本農業の衰退は明らかだからだ。

 情けないのは、政治。自民党で緊急講演したところ、ある議員が「今はTPPのTと言っただけでダメ」と発言したエピソードを披露している。農業団体の強力な反対を背景にしているからだが、国家戦略を考える基本的な資質を欠く国会議員が少なくないようだ。

 だから、日本の政治は……。ま、新年からグチるのはやめます。“軽薄短小”が幅を利かせる最近の新書にあって、内容の濃い1冊。 (のり)

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