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2011年12月17日

【この一冊】『成熟ニッポン、もう経済成長はいらない』

日本人は「優雅なる老衰」を楽しめるか?

seijyuku syohyou.jpg『成熟ニッポン、もう経済成長はいらない』
著者・橘木俊詔、浜矩子
朝日新書、定価760円+税

 

 老いた日本、そんなに焦って何するの?――。

 バブル崩壊後の日本経済の長期停滞とその克服について、さまざまな処方箋(せん)が出回っているが、本書はそんなキャッチフレーズを使い、国家規模で「もう若くないんだから、ほどほどに人生を楽しもうよ」と勧めている。

 浜氏は、日本が「成熟債権大国」になっている点に注目し、経済成長至上主義でキャッシュフローをガツガツ稼ぐ「子供」の時代は終わり、膨大なストックを活用する「大人」の経済に変わっている事実を指摘。その自覚がなく、若いころと同じ感覚でいるから、「中国にGDPを抜かれた」「近くインドにも抜かれそう」と大騒ぎするのだという。

 橘木氏も、今後はゼロ成長では困るが、1~2%程度の成長ペースでいいのではないかと主張。成長の結果、地縁血縁の社会が崩壊して「無縁社会」「格差社会」になってしまった現状に憂いを示し、「分かち合い」社会への転換を提示する。

 社会福祉の側面で考えると、高負担・高福祉の欧州型か、低負担・自己責任の米国型か、日本はどちらに向かうべきかという議論が盛んだ。しかし、本書ではそれらを含む「この国のかたち」について論じており、浜氏が言うように、グローバル化の中で新しいパラダイムを見つけた国はまだない。

 その意味で、日本は世界的な“実験国”になろうとしており、それはそれで新たな挑戦ではある。グローバル経済と社会保障を専門にする著名な経済学者が、そろって「もう成長は不要」と成長論者を刺激する対談。学術論文ではないので、とてもわかりやすい。 (のり)

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