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2011年11月26日

【この一冊】『銀座の画廊巡り~美術教育と街づくり』

経済大国から文化大国への変身を主張

ginzagaro.jpg『銀座の画廊巡り~美術教育と街づくり』
著者:野呂 洋子
新評論、定価2400円+税

 

 東京・銀座といえば日本の最高級商店街。百貨店、ブランド店、貴金属店、そして画廊。どれも富裕層向けで、貧乏な庶民には無縁の一帯……。

 と思っていたら、いつの間にか銀座は変わりつつある。ユニクロやH&Mが進出する一方、通りには中国人、韓国人の富裕層が目立つようになった。そう、銀座は変わりつつある。では、300店以上ある「銀座の画廊」は変わりつつあるのか。

 冗談ではない。評者のような貧乏人が足を踏み入れる場所ではない。高額の絵なんて、買う気もないし、逆立ちしても買えません。この辺が大方の庶民の反応であろう。それでいいのだろうか。

 著者はそんな疑問から出発して、敷居の高い銀座の画廊を「開かれた」画廊に変え、それを新しい銀座名物にしようと走り回っている。本書はその奮闘記である。

 著者は大学の理系出身で、日本IBMのシステムエンジニアになった。結婚を機に退職、夫婦で銀座画廊の経営者になるという異色の経歴を持つ。だから、閉鎖的な業界慣行に縛られず、自由な発想で銀座の画廊を蘇生させようとしている。

 近所の小学生を“引率”して画廊をめぐり、絵画鑑賞を通じて本物の素晴らしさを体感させる。中央区とタイアップして「銀座の画廊巡り」を実施する。固定客相手の「閉じた」商売に慣れ切った画廊の反発にも動じず、次々と同好の士を広げていく著者の行動力には目を見張るものがある。

 著者は、日本が経済大国から文化大国へ変身すべきだと言う。しかし、いくら個人で頑張っても限界があり、政府など公的機関の音頭取りを提言しているが、経済最優先に慣れ切った日本の役所の反応は鈍い。

 このままでは、「銀座をアジアのパリに」と意気込む著者の意欲を削いでしまいかねない。目覚めよ、日本! (のり)

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