「医学モデル」から「社会モデル」へ見直し提言
『障害を問い直す』
編著者:松井彰彦、川島聡、長瀬修
東洋経済新報社、定価3600円+税
内閣府の「障害者白書」によれば、日本には身体障害者約370万人、知的障害者約60万人、精神障害者約330万人、合計700万~800万人の障害者がいると言われている。本書はこれらの人たちを法的に保護するための「障害者差別禁止法」の制定に向けて、「障害者」の定義から見直すべきだと主張する。
即ち、これまでの「医学モデル」によれば、「障害=損傷」だが、これを転換させ、障害を個人の外部に存在する社会的障壁によって構築されたものととらえ、障壁の解消に向けた取り組み責任を、障害者個人にではなく社会の側に見出す「社会モデル」と呼ばれる考え方だ。
この点は第1章の「顔の異形は『障害』である」により明確に述べられている。例えば、顔に大きなあざや傷跡のある人は、就職活動の場面などで明確に差別されているにもかかわらず、医学的に障害があるわけではないため「医学モデル」では「障害者」とみなされない。
従って、「障害者差別禁止法」が成立しても、法的保護の対象外となってしまうなど、「障害者」を「医学モデル」で考えるか「社会モデル」で考えるかによって、対応策に雲泥の差が出来てしまう。
人間が健常者として生まれ・育つか、障害者として生まれ・育つかは全く偶然の産物であり、結局、両者が助け合って生きる「共生社会」をめざすしかないわけだが、自らがその立場になってみないと、このような問題はなかなか考えないものだ。本書は「差別なき共生社会」を考える上で、理論的な必読書であろう。 (酒)