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2011年10月22日

【この一冊】『スマート・パワー―21世紀を支配する新しい力』

「アメリカ衰退論」への批判と新戦略論

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『スマート・パワー―21世紀を支配する新しい力』
著者・ジョゼフ・S・ナイ(Joseph S.Ney,Jr)
訳者・山岡洋一、藤島京子
日本経済新聞出版社、定価2000円+税

 

 著者はアメリカを代表する国際政治学の専門家で、著書『ソフト・パワー』などで日本でも広く知られており、クリントン政権下で米国家情報会議議長、国防次官補を歴任。オバマ政権発足時には、駐日大使の有力候補とうわさされるなど、学界以外でも良く知られている著名人。

 本書は著者の長年の研究を統合した代表作とも言える。世界政治の現状を①アメリカに高度にその力が集中している軍事力の層、②多極構造になっている経済力の層、③地球環境問題、犯罪、テロ、伝染病などの多国間関係の層、の3層構造の中で考えるべきだとして、これからは「ハード・パワー」(強制力)と「ソフト・パワー」(魅力)の柔軟な結合である「スマート・パワー」が重要になる、としている。

 終章では、アメリカの「スマート・パワー」戦略が具体的に5段階に分けて展開。最近の「アメリカ衰退論」を批判し、アメリカに「エール」を送りつつ、「現実主義とリベラリズムと言う古い対立を超えて、リベラル・リアリズムとも呼べる新たな総合の観点を採用する必要がある。」と結論づけている。

 ただ、現在、グローバル金融危機の元凶になっているアメリカがこれから「新自由主義」に代わるどのような理念を掲げ、グローバル・ガバナンスを打ち立てていくのかは必ずしも明確にならない、という不満は残る。しかし、国際政治経済に関心を持つすべての人にとって、本書が必読書であることは間違いなかろう。  (酒)
 

 
 
 

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