日本の労働法制の歴史がわかる
『日本の雇用と労働法』
著者・濱口 桂一郎
日経文庫、定価1000円+税
労働法制研究の第一人者が書き下ろした概論書。日本の雇用システムと労働法制が、明治以降の戦前戦後を通じて、どのような経過をたどって現在に至ったかを概括している。
本書は「日本型雇用システムと労働法制」など6章構成で、雇用契約、新卒定期採用、定年制、人事異動、社内教育訓練、賃金制度、労使関係など、労働分野の基礎的なシステムについて解説を加えた。
一般に、労働法分野は複雑で学者や企業の人事担当者らの“専管事項”になっているが、本書は戦前、戦中、戦後の雇用システムと労働法制の流れを、数多くの裁判の判例をまじえながら解説。それを読むと、どれもそれなりの歴史的経過をたどっていることがわかる。
本書によれば、戦後日本を特徴づける終身雇用、年功賃金、企業別組合についても、そのルーツは戦前の日露戦争から第1次世界大戦の20世紀初めころまでさかのぼるという。
そして、日本型雇用の最大の特徴を、企業と社員が職務(仕事の内容)について契約する「ジョブ型職務制度」でなく、社員が企業に属することを約束する「メンバーシップ型」にあると位置づける。戦後日本は、この雇用システムが「正社員中心主義」として高度成長を実現する土台になった。
しかし、バブル崩壊以降はこれが徐々に崩れ、非正規社員の増加、賃金制度の歪み、組合の凋落など、至るところで軋(きし)みが生じている。本書はこれらの問題については、政府などの対応をひと通り紹介するにとどめている。
「入門書」としてはむずかしい部分もあるが、現在の労働分野の問題にどんな歴史的な経緯があったのか、それを勉強するには恰好の1冊。 (のり)