元通貨ディーラーが描く「世界通貨戦争」の諸相
『通貨戦国時代―円高が続く本当の理由』
著者・小口幸伸
朝日新書、定価700円+税
著者はシティバンクでチーフディラーを歴任するなど、現場の実務を経験しながら、通貨・為替問題に関する著作を書いている「通貨問題のプロ」である。
著者によれば、「多くの通貨が史上最高値を更新する」現在のような状況は「異常だ」とし、その原因を「世界が通貨戦争を戦っているからだ」として諸相を解説している。
著者は言う。「通貨の勢力地図の変化は、世界の政治経済体制の変化を反映する。通貨の変動はそうした変化を反映する新しい世界秩序が生まれるまで激しく続く。それは通貨の戦国時代であり、盟主がその力を失った、群雄割拠の時代に入ったと言える。それに伴う通貨危機は新しいシステムを求める通貨の声だ」。
しかし、著者は「新しい世界秩序」や「新しいシステム」に言及してはいない。つまり本書は「通貨戦争」という名の1930年代に発生した「通貨切り下げ競争のリスク」に警鐘を鳴らすだけで、それを回避したり解決するための方向性を示すわけではない。
「戦後の基軸通貨米ドル」の崩落の可能性は、今や多くの人々が危惧するところになっている。それにもかかわらず、現場の実務家からでさえ対応の方向性も提起されないことに、不満も残る。 (酒)