「日本の正しいおじさんたち」への応援歌
『「おじさん」的思考』
著者・内田樹
角川文庫、定価552円+税
著者は最近特に人気が高い1950年生まれのエッセイスト。東大時代は学生運動に関わり、現在は、古武道とフランス現代思想に精通した独自の視点で注目を集め、小林秀雄賞(07年)、新書大賞(10年)、伊丹十三賞(11年)などを受賞している。本書は評判となった02年発刊の単行本の文庫版。
「正しいおじさん」たちがその生き方の支えとしてきた「常識」が今、ことごとく否定されているのに対して、「あなた方は間違ってやしない」と主張するのが本書であり、いわば、「日本の正しいおじさん」たちへの応援歌である。
著者は言う。「現代は不幸な時代」で、「人々は国家を信じるのを止め、家庭を信じるのを止め、学校を信じるのを止め、会社を信じるのを止め、地域社会を信じるのを止め、歴史の進歩を信じるのを止め、神の摂理を信じるのを止めた」。さらに「信じるのを止めたのにはそれなりの歴史的必然があるのだから、それはそれで仕方がない」と言いつつ、その処方箋(せん)を明確に示すわけではない。
著者が唯一主張するのは、かつて「正しいおじさん」たちが信じたものを棄て去るのではなく、「もう一度取り戻せ」というものである。
その語り口の明快さから、本書は「正しいおじさん」たちに爽快感をもたらし、晩年を迎えた人々に、「自分たちが信じてきたものは決して間違いではなかった」という安心感をもたらすかもしれない。
しかし、「ではこれから、具体的にどうしたらいいのか」という晩年の指針ともいうべきものまでは指し示していないため、「正しいおじさん」の中には困惑が広がるかもしれない。 (酒)