「反核学者」が祈りを込めた核の入門書
『新版1945年8月6日~ヒロシマは語りつづける』
著者・伊東壮
岩波ジュニア新書、定価800円+税
戦後66年も経つと、世界のパワーゲームは多様化し、核兵器も冷戦時代の「核独占」から、テロリストに狙われる「核拡散」の時代になった。毎年、数多くの核関連出版物や映像が作成されているが、中には核を政治ゲームの道具として論じるだけの浅薄な作品も少なくない。
そんな時代にこそ、核兵器の歴史と恐ろしさを基本認識として持つ必要がある。本書は、広島で被爆した学者が1979年に「祈りを込めて」書き、89年に一部を書き足した新版で、核ものの古典的著作。
戦時下の生活や被爆の惨状に加え、広島・長崎に原爆が投下された理由について、背景となる日本と世界の政治、米国の核開発の経過なども詳細に追った。旧版では米スリーマイル島の原発事故を収めたが、80年代に入って世界規模で反核運動が盛り上がり、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故が起きたため、最終章で大幅加筆して「新版」とした。
新版とはいえ、世に出てからすでに22年が過ぎた。しかし、核の原点を知るという意味で、現在のわれわれが読んでもまったく違和感はない。子供向けに書いているため、文章もわかりやすい。
著者は旧制中学3年当時、学徒動員で工場にいた時に被爆。一橋大を卒業して経済学者になり、山梨大学長まで務めた。一方で、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員として被爆者援護法の制定に尽力。国連軍縮総会で核廃絶演説に立つなど、平和運動に尽くしたが、2000年に死去。福島原発の事故を、天国でどう見ているだろうか。 (のり)