佐伯教授による「京大白熱教室」を狙ったが
『現代文明論講義―ニヒリズムをめぐる京大生との対話』
著者・佐伯啓思
ちくま新書、定価880円+税
サンデル教授の「ハーバード白熱教室」がNHK教育テレビ(Eテレ)で放映されて以降、「大教室での学生を交えての討論講義」が一躍脚光を浴びるようになった。本書は、この形式を借りて佐伯教授が京都大学で行った学生との対話講義をまとめたものである。
「なぜ人を殺してはいけないのか(自由と規範をめぐる討議)」、「なぜ民主主義はうまくいかないのか(民主主義をめぐる討議)」、「尖閣列島は自衛できるか(「国を守ること」をめぐる討議)」、「主権者とは誰か(憲法をめぐる討議)」など、学生の反応は意外性があって面白い。
しかし、著者が現代思想の課題と考える「ニヒリズムとその克服」をめぐる話になると、著者の一方的な講義となって、本来の「学生との対話」はどこかにいってしまい、「ハーバード白熱教室」のレベルには到達していない。
そもそも「現代文明の本質であるニヒリズムをどのように理解するのか」「日本の“無の思想”でニヒリズムの危機を乗り越える」といった本質的な議論になると、著者の説得力は著しく劣化する。
つまり、「現代文明の本質はニヒリズム」と理解し、その克服の可能性を「西洋思想のゆきづまりとその脱出口を日本思想に求めようとした京都学派の中心=西田哲学」にたどり着く著者の思考は一方的であり、「我田引水」の感を免れない。ただ、本書は現代文明の課題を分かりやすく解説しており、一読の価値は十分ある。 (酒)