「無頼」でなければ大人ではない?
『大人の流儀』
著者・伊集院静
講談社、定価933円+税
「週刊現代」に連載していたコラムを1冊にまとめたもので、全38編。それに長いコラム「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」を収めている。
表紙の帯には「本物の大人になりたいあなたに捧げる、この一冊」とあり、年配者が若手を叱る時の心得、ケンカの勝敗は「覚悟」で決まるなど、「そうか、そういうふうに考えればいいのか」と思わせるセリフが並ぶ。数々の文学賞に輝く一流作家ならではの独特の文章は読んで飽きない。
しかし、読んだ後も「本物の大人」ってなんだろうという素朴な疑問はちっとも解消しない。ギャンブル狂になったり、アルコール依存症になることが「本物の大人」とも思えないし、ましてゴルフに凝ったり、海外旅行に出かけることでもないだろう。
唯一、「本物の大人」を実感できたのは、夏目雅子さんを亡くした日、つかまえたタクシーを先に待っていた母子に譲った話。精神的な混乱の極みのなかで、「人はそれぞれ事情をかかえ、平然と生きている」と結ぶ強さは泣かせるね。
ギャンブル、酒、野球、執筆と好きなことにのめりこむ著者に漂う雰囲気は「無頼」そのもの。天下の美女はこの種の「無頼」に弱いらしい。ある女性作詞家が「彼は女性にものすごく優しい」と打ち明けていた。あの風貌で優しい、のか。(のり)