ベテランジャーナリストによるひと味違う現代アジア論
『アジア力』
著者・後藤康浩
日本経済新聞出版社、定価2000円+税
著者は日経新聞の産業部兼アジア部編集委員。その立場を生かして最新のアジアの状況を、産業力と消費力という独自の視点からまとめている。
多数出版されているアジア関連書と異なり、東アジアだけではなく、ASEAN諸国やインドなどの南アジア、ドバイ、カタールなどの中東地域も含むアジア全域を対象に「生産と消費がスパイラル状に伸びている」最近の状況を「アジア力」と呼ぶ。
著者によれば、「輸出向け生産が途上国で雇用を生み、所得向上を通じて、現地の国内需要を作り出し、さらにそれが現地で外資メーカー、地場メーカーの生産を伸ばす、という相乗効果がアジア全域で生まれており」、その結果、世界の経済・産業の「中心軸」が日韓中・米国西海岸の発展に支えられた「太平洋の時代」から日韓中+印・パ・バ(注)+ASEANが競争・連携しながら発展する「インド洋の時代」へとシフトしつつある、という。(注:インド、パキスタン、バングラデッシュ)
さらに、「こうした流れの中で、日本経済が再生するには、アジアへの認識を転換し、アジアを知る人材を育成していくとともに、移民を含め、日本をアジアに開放していくことが必要になる」と主張している。
もちろん著者は「アジアのリスク」としての「未熟な政治」についても言及しているが、中国についてはやや詳しく解説しているものの、インドなどのリスクについては全く言及していない。
そもそも、アメリカの存在を無視してアジアの政治や安全保障は語れないと思うが、アジアにおける米国の位置付けという最も重要な問題を回避しているため、「画龍点睛を欠く」感が残るのは否めない。 (酒)