医療崩壊は医師だけの問題ではない
『看護崩壊~病院から看護師が消えてゆく』
著者・小林美希
アスキー新書、定価762円+税
救急患者の「たらい回し」や手術の基本ミスなど「医療崩壊」の現実と対策をめぐる議論が盛んだが、念頭に置かれるのは医師不足や診療報酬体系が中心。患者のケアにとって最も重要な看護師不足については、それほど議論が進んでいない。
著者はこれに強い疑問を感じ、取材を進めた結果、信じられない深夜・長時間労働や休日不足で心身に負担がかかり、仕事に意義を感じながらも辞めざるをえない看護師が毎年10万人にものぼる実態をえぐりだす。
問題の根源には医師中心の診療報酬体系、「看護師不足はない」と主張し続ける厚生労働省の姿勢、医療という「公職観」に寄り掛かった社会意識など、長年に及ぶ根の深い歴史が横たわっており、すぐに解決できる内容ではないこともわかる。
著者は、このままの状態が続くと、看護師不足はさらに深刻になって、団塊の世代全員が75歳を迎える超高齢社会の「2025年問題」を支えられず、在宅医療・介護など絵に描いたモチになる、と警告する。
本書の特徴はジャーナリストらしい徹底した看護師らへの取材と、豊富な調査データなどを駆使し、問題の所在を浮き彫りにしていること。これまでは医師、看護師、行政関係者、学者など、それぞれが自分の立場から論じるだけの「各論地獄」に陥る例が多かった。看護現場の悲惨さを強調し過ぎたきらいはあるが、医療崩壊を考えるうえで欠かせない1冊になりそうだ。(のり)