「目からウロコ」の日本経済論
『デフレの正体』
著者・藻谷浩介
角川oneテーマ21、定価724円+税
デフレ下にある日本経済について、通説とは全く異なる切り口で分析しており、通説に親しんできた人ほど「目からウロコが落ちるような」体験を味わえる本である。そのため、「2010年・新書・経済部門・ベストワン」にも選ばれている。
著者によれば、現在の日本経済に起こっていることは、団塊世代の一次退職⇒彼らの年収の減少⇒彼らの消費の減退⇒内需対応産業の一層の供給過剰感⇒内需対応産業の商品・サービスの値崩れ⇒内需対応産業の採算悪化⇒内需対応産業の採用抑制・人件費抑制⇒内需の一層の減退=国内経済の縮小⇒デフレ、である。
従って、「生産性を上げろ、経済成長率を上げろ、公共工事を景気対策として増やせ、インフレ誘導をしろ、エコ対応の技術開発でモノづくりのトップランナーとしての立場を守れ」など、通説の処方箋では実効性に欠ける、としている。
それらに代わる著者の具体的提言は大要次の3点である。
①(お金を貯蓄するだけで若いころのように消費しない)高齢富裕層から、(消費する)若い世代への所得移転の促進
②(消費性向が高い)女性の就労の促進とそのための女性の経営参加の促進
③(国内消費を増加させてくれる)訪日外国人観光客・短期定住客の増加促進
このように、新しい切り口が随所に見られるが、「団塊の世代の消費」に焦点が絞られすぎており、提言の実現可能性を考えると、疑問符をつけたくなる部分もある。
例えば、団塊世代が消費ではなく貯蓄に走る最大の理由は、年金制度など高齢化社会における安心や安全が十分確保されていないことにあり、著者もそのための「生活保護の充実」や「年金から『生年別共済』への切り替え」を提言している。
が、これらは昔からある議論であり、既存の年金制度ですら改革が進まない現状を考えると、とても現実感のある提言とは思えない。さらに、この種の議論に多い「団塊の世代」原因論には、団塊世代の一員として納得しがたい気もする。
ただ、いずれにしても、本書は著者自ら宣伝しているように「読んだほうがいい本」であることは間違いない。 (酒)