「農業を守れ」の大合唱論文集
『TPP反対の大義』
農文協ブックレット、定価800円+税
題名からも明らかだが、政府が推進しようとしているTPP(環太平洋経済協力協定)に対する反論集。まえがきではTPPを「稀代の愚策」「日本社会の存立に関わる問題」と決めつけ、それに反対する「国民的大義」を明らかにする、と息巻いている。昨年末の緊急出版にもかかわらず、26人の反対論者が健筆を振るったという。
反対の重点をどこに置くか、筆者によって少しずつ違っているが、大体の共通点は①農林水産業は社会的共通資本であり、TPPはそれを破壊する②TPPは米国の陰謀であり、日本の国益にならない③ただでさえ先進国でも最低レベルの食料自給率が、TPPによってさらに下がり、食糧安保の面から問題――ぐらいに尽きようか。
どれも一理あり、それが政治や行政を巻き込んで激しい賛否が交わされている。民主党の現執行部は「TPP参加は平成の開国」「食料自給率50%をめざす」という、一見、あい矛盾する目標を打ち出しており、本書でも大学教授が「両立など不可能」とかみついている。
しかし、本当にそれは不可能なのか、もっと冷静に考えてみる必要がありそうだ。というのも、日本農業の衰退は産業構造の変化、人口の都市集中、農協を頂点とする保護政策への安住、消費者のコメ離れなど、もっぱら長年の国内事情によってもたらされたもの。仮にTPPに参加せずに“鎖国”したままでも、本格的な人口減社会に突入した日本で農業はジリ貧の道をたどりはしないか。
もう一つ気になるのは、本書の論者の多くが、農水省が出した試算を何の疑問も持たずに援用していること。昨年秋、TPP効果の損得を試算した数字が内閣府、経済産業省、農水省の3省庁から出された。
農水の試算はTPPに参加してコメなど主要産品の関税が撤廃され、戸別所得補償などの政策をしないという前提で、農産品生産額が4兆円余り減少し、雇用も減少。その結果、自給率は今の40%から14%に激減するというもの。前提からして現実離れしており、数字だけが独り歩きを始めている。それを我田引水したような主張に、どこまで信用性があるだろうか。
ただ、全体に日本の農政のあり方を考えさせ、韓国の“開国”事例など、参考になる論文も多い。なにより、農政や農業の実態を知らない国会議員らが読むべきだ。(のり)