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2013年8月22日

木曜日のつぶやき86・歴史の重み

ビー・スタイル ヒトラボ編集長 川上敬太郎氏

 この夏、私は神の領域に足を踏み入れた。

 故郷、三重県にある伊勢神宮。持統天皇の時代に始まったとされる遷宮は、約1300年前から20年に1度行われてきた。今年はその、20年に1度の年に当たる。ウィキペディアによると、遷宮とは「神社の本殿の造営または修理の際に神体を従前とは異なる本殿に移すこと」。平たく言うと、神様のお引っ越しである。

 きっかけは母からの電話だった。伊勢に住む叔母が遷宮行事のひとつである「お白石持ち(おしらいしもち)」に招待してくれるという。

 正直、最初はピンと来なかったが、叔母から送られてきたファクスを見て意識が変わった。行事当日は、真っ白い服に真っ白いズボン、真っ白い靴下に真っ白い靴を着用しなければならないとある。また、日照りが凄いので真っ白い帽子も必要。

 これは神事なのだと悟った。

c130822.jpg 行事前日、津市の実家に着くと叔母から法被(はっぴ)が届けられていた。艶やかな桜吹雪の法被。77ある奉献団はそれぞれ彩りの違う法被を身にまとう。私が参加する奉献団の衣装は、白づくめの上に桜の花びら。テンションが上がった。

 7月28日、猿田彦神社の駐車場に同じ法被を着た数百人が集まった。全員で2本の縄を引くと、たくさんのお白石を載せた奉曳車(ほうえいしゃ)が動き出す。同時に大きな車輪が回り、尺八のような音が鳴り響く。

 大人も子供も、女性も男性も、掛け声を上げながら伊勢神宮の宇治橋前までお白石を引いた。酷暑の中、年配の方が熱中症になられたが無事だったようだ。かなり高齢の方だとお見受けしたが、あの暑さの中、それでも参加したいと思わせる何かがこの神事には確かにあった。

 歴史をつないでいく重み。それは簡単に口では言い表せない魂の重み。人材派遣業界は1986年の法施行から今年で27年。業界黎明期の機運は、株式会社マン・フライデー創業者、竹内義信氏が書かれた小冊子『派遣前夜』に詳しい。派遣事業に携わる方にはぜひ読んでいただきたい。自分たちが継承すべき歴史に触れることができる。

 たかが歴史。されど歴史。今の世に生を受けた者は、あまねく歴史の継承者となる。

 白いハンカチに包んだお白石を持ち、神の住まいに足を踏み入れて見た光景は眩いほどの輝きを放ち、厳かな心持ちと共に深く脳裏に焼き付いている。

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